はじめに
毎日時間をかけて清掃しているのに、翌日にはまた床が粉じんや油で汚れている。清掃に人手を取られて本来の生産業務が圧迫されている。人手不足のなかで、清掃当番の負担に不満の声が上がっている。工場の管理者や現場リーダーの方であれば、このような悩みを一度は抱えたことがあるのではないでしょうか。清掃は品質や安全を守るために欠かせない作業ですが、やり方を見直さないまま続けていると、時間と人件費だけが積み重なっていきます。
清掃の手間を減らすためには、清掃のスピードを上げることだけを考えるのではなく、そもそも汚れを出さない、汚れても落としやすい現場をつくるという視点が重要です。この記事では、工場の清掃に手間がかかる原因を整理したうえで、汚れの発生源対策、清掃しやすい環境づくり、清掃作業そのものの効率化、そして取り組みを進める手順までを解説します。自社の工場で今日から見直せるポイントを見つけるための参考にしてください。
工場の清掃に手間がかかる主な原因
汚れの発生源が放置されている
清掃に手間がかかる工場では、汚れの発生源そのものへの対策が後回しになっていることがあります。設備からの油漏れや切削くずの飛散、原材料の粉のこぼれ、搬送時の落下物などを放置したまま清掃だけを繰り返していると、いくら掃除をしても同じ汚れが毎日発生し続けます。
清掃は発生した汚れを取り除く作業ですが、発生源を減らさない限り清掃量もなかなか減りません。まずは「どこから、何が、どれくらい出ているのか」を把握することが、手間削減の出発点になります。
物が多く清掃しにくいレイアウト
通路や設備の周りに部材や仮置きの荷物、使っていない治具などが置かれていると、清掃のたびにそれらを移動させる手間が発生します。物の下や隙間には粉じんやごみがたまりやすく、ほうきやモップが届かない場所も増えてしまいます。
また、配線や配管が床をはっていると、清掃機器の通り道がふさがれ、手作業が増える原因になります。清掃時間を計測してみると、実際に汚れを取る作業だけでなく、物を動かしたり道具を準備したりする付帯作業に多くの時間を使っている場合もあります。
床や設備が汚れやすい素材・構造になっている
コンクリート床は、表面が摩耗したり劣化したりすると粉じんが発生することがあり、未処理の状態では油や液体が染み込みやすい場合もあります。表層が弱っている床では、人や台車、フォークリフトなどの通行によって粉が出続けることもあります。
また、壁と床の境目や設備の脚元など、凹凸や狭い隙間が多い場所は、ほこりや汚れがたまりやすく清掃にも時間がかかります。こうした素材や構造の問題は、日々の清掃方法だけでは改善しにくいため、必要に応じて床や設備まわりの改修を検討する必要があります。
清掃のやり方が属人化している
清掃の手順や範囲、頻度が明確に決められておらず、担当者の経験や感覚に任されている工場も少なくありません。人によって清掃の仕方がばらつくと、ある日は念入りに時間をかけ、別の日は必要な場所が抜け落ちるといった状態になり、効率も品質も安定しません。
また、必要以上の頻度で清掃している場所がある一方で、汚れがたまりやすい場所が見過ごされることもあります。清掃作業を見える化し、一定のルールとして標準化することが手間削減には有効です。
汚れを「出さない」ための発生源対策
設備からの漏れや飛散を抑える
油漏れや切削液、切りくずの飛散は、工場の床を汚す代表的な原因です。油漏れについては、配管の継ぎ目やパッキンなどを点検し、劣化や異常があれば早めに修理・交換することで発生量を抑えられます。
すぐに修理できない場合でも、漏れやすい箇所の下に受け皿やオイルパンを設置すれば、床全体に広がるのを抑えることができます。切りくずや粉体の飛散に対しては、設備にカバーや飛散防止ガードを取り付けたり、発生箇所の近くで集じんしたりする方法があります。発生源の近くで汚れを回収できれば、清掃範囲そのものを狭くできます。
床の防塵・防汚性能を高める
コンクリート床からの発塵や油の染み込みに悩んでいる場合は、床そのものの性能を改善することも有効です。代表的な方法に、コンクリート表面を樹脂塗膜で覆う防塵塗装や塗り床があります。
表面を塗膜で覆うことでコンクリートからの発塵を抑え、使用する材料によっては油や液体が染み込みにくくなるため、日常清掃もしやすくなります。ただし、塗膜の耐久性や耐油性、耐薬品性は製品によって異なるため、使用環境に合わせて選ぶことが重要です。
また、ケイ酸塩系などのコンクリート表面強化材を浸透させ、表層を緻密化して耐摩耗性や防塵性を高める方法もあります。塗り床のような厚い樹脂塗膜を形成しないため、塗膜剥離とは異なるメンテナンス特性を持つ点が特徴です。フォークリフトの通行量や油・薬品の使用状況、求める美観などによって適した工法は異なるため、現場条件に合わせて選定しましょう。
外部からの汚れの持ち込みを防ぐ
工場内の汚れには、外部から持ち込まれるものもあります。作業者の靴底や台車の車輪、搬入される資材などに付着した土やほこりが、そのまま工場内へ広がることがあります。
出入口にマットを設置する、搬入エリアと製造エリアを区分けして動線を分ける、必要に応じて作業エリアごとに履物を履き替えるといった対策によって、持ち込まれる汚れを減らすことができます。特に衛生管理や異物管理が重要な食品工場や精密部品工場では、品質管理の観点からも持ち込み対策が重要になります。
清掃しやすい現場をつくる工夫
5Sで床に物を置かない状態をつくる
清掃しやすい現場づくりの基本となるのが5Sです。不要な物を整理し、必要な物を決められた場所に整頓することで、清掃のたびに物を移動させる手間を減らせます。
さらに、部材や工具を床に直接置かず棚やラックに収納したり、必要に応じてキャスター付きの台車や架台を利用したりすることも有効です。床に置かれた物が減れば、床洗浄機などが通れる範囲も広がり、手作業に頼る部分を減らしやすくなります。
整理整頓は一度行えば終わりではありません。置き場所や保管量を定期的に見直し、決めた状態を維持する仕組みをつくることが重要です。
汚れがたまりにくい構造にする
壁と床の境目や設備との取り合い部分などは、形状によってはほこりや汚れがたまりやすくなります。衛生性が求められる施設では、床と壁の取り合いを曲面状に仕上げるR巾木など、清掃しやすい納まりが採用されることがあります。
また、水洗いを行う工場では、床に適切な排水勾配を設け、排水口や排水溝まで水が流れやすいようにしておくことで、水たまりや汚れの滞留を抑えられます。食品施設では、床や内壁について清掃・洗浄しやすい材質や構造とすること、必要な場所では良好な排水を確保することが求められています。
設備の脚元に清掃できるスペースを確保したり、可能な範囲で配線や配管を床面から離したりすることも、清掃性の向上につながります。新設や設備改修の際には、保守性とあわせて清掃のしやすさも設計条件として検討するとよいでしょう。
清掃道具の置き場所と種類を見直す
清掃道具が一か所にまとめて保管されていると、作業場所によっては道具を取りに行くための移動時間が増えます。汚れが発生しやすいエリアの近くに、そのエリアで使う清掃道具を配置しておけば、必要なときにすぐ清掃できます。
道具ごとの置き場所を明確にする姿置きなどを採用すれば、使用後に元の場所へ戻しやすくなり、道具を探す時間や紛失の防止にもつながります。
また、汚れの種類に合った道具や洗剤を選ぶことも重要です。油汚れ、粉じん、水分などでは適した清掃方法が異なるため、現場の汚れに合わせて清掃機器や洗剤、吸着材などを選びましょう。
清掃作業そのものを効率化する方法
清掃手順の標準化と頻度の見直し
清掃の属人化を解消するには、エリアごとに清掃の範囲、方法、使う道具、頻度などを決め、担当者によるばらつきを抑えることが有効です。手順書やチェック表を作成し、必要に応じて写真で清掃後の状態を示しておけば、作業者ごとの判断の差も小さくできます。
同時に、各エリアの汚れ方を確認し、毎日清掃する場所、週単位で清掃する場所など、実態に応じて頻度を設定することも重要です。ただし、食品・医薬品など法令や衛生管理計画に基づく清掃頻度が定められている現場では、その要求を優先する必要があります。
また、終業後にまとめて清掃するだけでなく、作業中に発生した汚れをその都度処理するルールを設けることで、汚れが広範囲に拡散したり固着したりするのを防げる場合もあります。
床洗浄機や清掃ロボットで機械化する
広い床面積を人手で清掃している場合は、床洗浄機などによる機械化を検討する価値があります。業務用の床洗浄機には、洗浄液の供給、ブラシなどによる洗浄、汚水の回収を一連の作業として行えるものがあり、広い床を効率よく清掃できます。
また、現在は工場などで利用できる業務用の床洗浄ロボットも販売されており、あらかじめ設定した範囲を自動走行させることで、清掃作業の省人化につなげることができます。実際に工場向けの床洗浄機や清掃ロボットが製品化されています。
ただし、機種によって走行可能な通路幅、段差、床材、障害物への対応能力などは異なります。床に物が多い現場や頻繁にレイアウトが変わる場所では期待した効果を得にくいこともあるため、導入前に現場との適合性を確認することが重要です。
専門業者へのアウトソーシングを活用する
高所の清掃や設備の分解洗浄、床の定期洗浄など、専門的な技術や機材が必要な作業は、清掃業者へ委託することも選択肢になります。
日常的な清掃は社内で行い、定期清掃や特殊清掃は外部へ依頼するなど、作業内容によって役割を分ければ、従業員が生産業務に充てられる時間を増やせる場合があります。
外注費は発生しますが、社内で清掃に使用している工数や教育、清掃機器の購入費・保守費なども含めて比較すると、自社に適した方法を判断しやすくなります。
それぞれの方法の特徴を整理すると、以下のようになります。
| 対策 | 期待できる効果 | 初期コストの目安 | 向いている現場 |
|---|---|---|---|
| 5S(整理・整頓) | 物を動かす手間の削減、清掃しやすさの向上 | 小さい | すべての工場 |
| 設備の漏れ・飛散対策 | 汚れの発生量そのものを削減 | 小〜中 | 油や切りくず、粉体が多い工場 |
| 床の防塵塗装・塗り床 | 発塵の抑制、汚れの拭き取りやすさ向上 | 中〜大 | コンクリート床の劣化や油汚れが目立つ工場 |
| 清掃手順の標準化 | 作業のばらつきや不要な作業の削減 | 小さい | 清掃が属人化している工場 |
| 床洗浄機・清掃ロボット | 広い面積の清掃効率向上、省人化 | 中〜大 | 床面積が広く、機械が走行しやすい工場 |
| アウトソーシング | 従業員の負担軽減、専門作業への対応 | 継続的な外注費 | 高所・設備洗浄など専門作業がある工場 |
清掃の手間削減を進める手順
現状を数値で把握する
清掃の手間を減らす取り組みを始める際は、まず現状を把握することが重要です。エリアごとに清掃にかかっている時間と人数を記録し、一定期間あたりの清掃工数を算出してみましょう。
あわせて、工場の図面などに汚れが多い場所や汚れの種類を書き込んだ「汚れマップ」をつくると、どこに発生源があり、どの場所に対策を集中すべきか整理しやすくなります。数値を記録しておけば、対策前後の効果も比較しやすく、設備投資を検討する際の判断材料にもなります。
優先順位をつけて小さく始める
現状を把握したら、清掃工数が大きい場所や、汚れが品質・安全に影響している場所から優先的に対策を進めます。
最初から大規模な設備投資を行うのではなく、整理整頓、受け皿の設置、清掃手順の見直しなど比較的取り組みやすい対策から始め、効果を確認しながら範囲を広げていく方法が現実的です。
そのうえで、床の劣化が発塵や汚れの固着を招いている場合は床改修を検討し、広い面積の清掃に多くの工数を使っている場合は床洗浄機や清掃ロボットなどの導入を検討するとよいでしょう。
効果を検証して定着させる
対策を実施した後は、清掃時間や汚れの状態がどのように変化したかを確認します。効果があった取り組みは手順書やルールに反映し、同様の問題があるエリアへ展開することで定着を図ります。
反対に、思ったほど効果が出なかった場合は、発生源を正しく特定できているか、清掃方法や頻度が適切かなどを見直します。清掃の手間削減は一度で完了させるというよりも、現状把握、対策、効果確認、改善を繰り返していく取り組みとして進めることが重要です。
まとめ
工場の清掃に手間がかかる背景には、汚れの発生源が残っていること、物が多く清掃しにくいレイアウト、汚れやすい床や構造、清掃手順の属人化などがあります。
手間を減らすためには、設備の漏れや飛散を抑えて汚れそのものを減らすこと、床の防塵塗装や表面強化によって発塵や汚れの固着を抑えること、5Sや設備配置の工夫によって清掃しやすい現場をつくることが基本となります。
そのうえで、清掃手順の標準化や頻度の見直し、床洗浄機・清掃ロボットの導入、専門業者への委託などを組み合わせることで、清掃作業そのものの効率化を進めることができます。
まずは清掃に使っている時間と、汚れが多く発生している場所を把握し、低コストで始められる対策から取り組んでみてください。コンクリート床の劣化による粉じんや油の染み込みが大きな負担になっている場合は、床の防塵・改修工法について専門業者に相談することも選択肢になります。




